賢者の詩 1〜疑念〜  作:月夜

ゴゥッ・・・

炎の鳥が燃え上がると共に、また一体の獣が葬られた。




ここは大きな森。近隣の人々に迷いの森と呼ばれ、恐れられている森である。
迷いの森といってもそこまで迷いやすいわけではない。それなのになぜ、迷いの森と呼ばれるのか。



簡単である。帰ってくる者が居ないからだ。
詳しく言えば、皆、『魔物』と呼ばれる獣や、モンスターの類に襲われ、力尽きてしまうのだ。

その迷いの森に今、一人の女性が居た。
いや、女性と言うには少し若いかも知れない。少女という感じだ。
髪は瞳と揃いの銀色で、白い服に、これまた白いマントを羽織っている。
唯一白でないのは腰につけたベージュのウエストポーチ。このくらいの少女にしては身長は高い方かも知れない。
美しい顔立ちをしていて、夜の街を歩いていたら十中八九声をかけられるだろう。
こんなところにいればあっという間に獣の餌食になってしまいそうだ。

しかし彼女はそうはならなかった。
先ほどの炎の鳥は、彼女が出したのである。


彼女は魔法使いだった。それも相当上級の。



いや、細かいことを言うと、彼女は魔法使いではない。







世に言う、賢者という存在だったのである。









――――――――――――――――――――――――――――


また、命を奪ってしまった。


いくら自分を襲ってきたからといって、命を奪ってしまってもいい、なんていう筋合いはどこにもない。
魔物が次には違うものに生まれ変わることを祈って、亡骸に背を向けた。

随分長い間、『賢者』をやってきた。
私の名前はカノン・クリスフィート。
昔、大体500年くらい前だろうか、私は『神』に見初められ、賢者となった。

賢者は不老不死で、あらゆる魔法を使いこなす。
神の命を受け、飢えや病に苦しむ者を救いにやってくる。
平和を愛し、戦を嫌う。

すべて世間で噂されていることで、すべて真実である。


今は特に戦争もないため、旅をしながら神の命を守っている。



もうすぐこの森も抜ける。そうすれば数刻もたたないうちに次の村につけるはずだ。
最近妙に魔物の襲撃が激しい。
大きな町ならば兵士が町を守るだろうが、若者が出稼ぎに出ている小さな村では防ぐことは到底不可能だ。
ひやりと胸の奥が冷たくなる。自然と村へ向かう足が速くなった。







しかし私が村へ着いたとき、そこは到底村とは呼べない状態になっていた。




「ひどい・・・。」


つい、そんな言葉が私の口をつくように。

家は焼け、道には血が染み込んでいる。
誰とも分からぬ死体があちこちに散らばっていた。

これだけ長く生きてくると流石に死体にも慣れるが、それでもここまでひどいものを見たのは久しぶりだ。


かろうじて息のあった村人を助け起こし、治癒魔法をかけた。
彼が目を覚ますのを見計らって声をかける。


「あの・・・この村はどうなされたんですか?」

彼は少々戸惑っているようだったが、はっとし、突然慌てだした。

「ま・・・魔物は?皆、どこへ?」


あたふたとする彼の口から魔物、という言葉が出てきたのを聞いて、やはりと思う。

「魔物が襲撃して来たんですね?」


確認のために問うと、彼は恐々頷いた。
魔物の特徴を聞こうと口を開きかけた時、私の背を向けている方向から、低い獣の唸り声がした。
すばやく振り向くと、空を飛ぶ大きな翼を持った魔物が一体と、銀色の狼に似た魔物が数体いた。
狼のような魔物はそこまでではないが、翼の方はまずい。
知能が高く、人間の言葉を話すことができる。
俗に『ガーゴイル』と呼ばれる魔物だ。

「ホウ・・・まだ生きている人間が居たか・・・。」

ガーゴイルはニヤニヤしながらこちらを見ている。
直感で分かった。今回の襲撃のリーダーはこいつだ。

生き物をむやみに殺めるのは嫌いだが、この魔物に殺された村人たちには何の罪もない。
罪のない生き物を殺す者には私は容赦しない。


ガーゴイルは炎を吐く魔物。炎には強い。
一瞬で魔法を頭の中で構築し、まだニヤニヤしているガーゴイルに放つ。
細いが強い、氷柱を放つ魔法。
その氷柱は油断しきっていたガーゴイルの翼を貫く。

「ク・・・油断していたか・・・一回退くぞ!」

ガーゴイルは逃げる気のようだが、そうはさせない。
今度は風。不可視の刃が、ガーゴイルの体を切り裂く。
ついでに近くに控えていた狼にも同じ魔法を放った。

狼たちは倒れ、ガーゴイルも落ちてきた。


「お前、何者だ・・・?」

「カノン・クリスフィート。しがない魔法使いよ。」


名を名乗ると、ガーゴイルは顔をゆがめながら笑った。


「そうか・・・。お前はそのうち後悔するだろう・・・忠実なる闇の僕、このガルグを傷つけたことをな・・・」



そういい残し、ガーゴイルは息絶えた。
しかし私はガーゴイルが最後に言い残したことが引っかかっていた。

自分は『闇』の僕だと。


彼ら魔物を統べる者が現れたのだろうか?


最近の襲撃の激しさは、その者のせいなのだろうか?


小さな疑念。


この小さな疑念が、すべての発端になるなどということを、この時の私は知る由もなかった。


コメント

3点 魔法剣士ショウ 2008/04/21 23:55
スゴイです!!
本当に本格的ストーリーでRPGっぽくて
面白かったです!!

3点 しめじ 2008/04/22 20:46
なんか伝わるねぇ。
面白さetc......

3点 カルネージ 2008/04/22 21:01
嗚呼。小説書くのうまい方に憧れますよ・・・
素晴らしいです

3点 正義 2008/04/23 14:35
すごいおもしろいです!!
つい夢中になっちゃいました

3点 スバル◆jEzKfLplwBA 2008/04/23 15:41
面白い!
続編が楽しみだ・・・

3点 勝利の方程式 2008/04/23 22:34
いや〜、(・∀・)イイ!!ですね〜(笑
満点ですよ、満点!(何

頭の中でアニメ調に流れてきますよw(笑
続きが楽しみですね☆

3点 PC 2008/04/24 07:38
すごいです!
てかすごいとしかいいようがありません!
続きを期待しています!

3点 ayu 2008/05/05 16:06
すごい!続編楽しみです。

3点 竜騎士 2008/05/07 22:00
さすがにすごくうまいですね。
殿堂入りしているほど凄いですね

3点 ジュリア 2008/06/17 23:26
これがなんか、とてもよく感じる

3点 ファン 2008/06/25 17:58
本になってもおかしくない

3点 名無し 2008/07/04 15:59
素晴らしいです

3点 hiro 2008/08/24 15:32
始めて小説掲示板に来てみましたが…
ちらっと覗くだけのつもりが、夢中に名って読んでしまいましたw
素晴らしいです。

3点 wwww 2008/08/31 14:18
素晴らしい!。最高の小説だ!!!!!

3点 asuran◆M7Z/0r6Cxxw 2008/09/28 14:51
すごい。
すごすぎるよ。

名も無き詩人 2008/10/11 13:25
うんこ作品。全然おもしろくない。
俺の方がおもしろい小説書けるし!まじでこんなの小学生でもかけるしwww。まじ何でこんな作品が良いのかが分かんねぇよ!
俺の方が100倍小説書くのすごいしww!

3点 名も無き詩人 2009/01/12 15:14
すばらしい

2点 てへへ 2009/02/11 15:25
すごい。

3点 hell・angel 2009/02/14 15:01
すばらしいです!
私はまだ書き始めたばかりなのですが・・・
ものすごくうまくて尊敬しちゃいます!
私も月夜さんみたいな小説が書けるように頑張ります!
っていつの間にか決意表明してる気が・・・
とりあえず、これからも更新、頑張ってください!
待ってま〜す♪

3点 黒狐 2009/02/25 16:43
読みやすいですね!
話の内容が分かりやすくて凄いですw
頑張ってください!

3点 月陰 2009/02/28 23:49
読みやすくて、次を期待させるような作品ですね。 次のup待っています。

3点 名も無き詩人 2009/05/10 09:14
とても読みやすくてすばらしかったです。


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