LOST PAGE 作:POWERS
「お前にはできない、しかし俺にはできる」
そう言って、シャーロックはボウルの中から茹で上がった玉蜀黍(とうもろこし)に手を伸ばした。
「隠し場所も考えてある。」
噛り付きながら得意げに言う。
「場所はこの家の庭、妻が『私の庭』と呼んでいたところだ。」
家の鋭角部分にある小さな庭だ。
「妻は俺より、この庭のことを愛していた。なら愛するものの傍にずっと居させてやろうじゃないか」
もう一本の玉蜀黍をボウルから取り出す。
「そう、いずれ時が経てば、妻の死も俺にとっては謎になるだろう」
× × ×
「行くな。あの場所には行くな。」
「そんな積もりはない。」
「戻れ今すぐ」
「・・・・・」
ハンドルを握り車を旋回させる。
「引き戻ってはだめだ。あの場所には」
「ならどうすればいい・・」
再び車を旋回させ、後ろにあるホテルに戻っていく。
「・・・・」
外は雪が降っており、これがクリスマスなら最高のホワイトクリスマスになったであろうが如く、世界は白銀に満ちていた。
「やることは分かってるな・・・?」
車から降り、足早に雪の中を移動する。このホテルは、マンションのようなホテルではなく、言うなれば平屋のようなホテルであるため、
部屋にたどり着くには簡単だった。
「・・・」
管理室から盗んできた、マスターキーを使い、できるだけ音を立てずに鍵を開けた。
「やるべきこと・・・やるべきこと」
そう繰り返し、勢いよくドアを開け放つ。部屋にはベッドで寝ていた裸の男女がいた。このホテルの部屋は全てリビングしかなく、ベッドもリビングにしかない。
「きゃぁぁ!!」
女のほうが悲鳴を上げる。
「・・・・ぅ」
いきなり激しい頭痛に襲われた。
「こんなときに・・・」
その隙に男のほうが、部屋にある電話で通報をしていた。
「く・・」
ポケットに忍ばせていた、銃を突きつける。女は泣き出し、男は唖然としていた。しかし、頭痛のせいで狙いが定まらない。
「畜生!!」
そう叫んで、部屋から飛び出し、車まで急いだ。後には女の泣いている声が残った・・・。
それから半年後
けたたましく鳴り響く固定電話の、鐘の音で目が覚めた。目の前に映る光景はいつもと同じ木で作れた二階まで吹き抜けている天井。それにつるされた洒落たシャンデリアだった。
いつも寝ているソファーから体を起こし、ソファーの目の前にある机の上から眼鏡を手に取る。気だるそうに一歩一歩固定電話に近づき、電話ごとさっきの机に持ってきて、それから
初めて受話器を手に取る。
「・・・ぁぁもしもし?」
「あぁ、エイミーよ」
「なんだ君か・・・・で何?どうしたの?」
「その・・・・嫌な感じがしたの。貴方がトラブルに巻き込まれるような気がして・・・・。」
「またそれか・・・・。心配ないから。」
「そう・・・・?それならいいんだけど。」
「じゃぁ僕は仕事があるから。」
「分かったわ。」
会話を追え受話器を置いた。
「こんな山の中にある家で何がおきるって?なぁ?」
傍で寝ていた犬に問いかける。この犬の名前はチコ。先ほどのエイミーという女性の犬だった。今はこの家にいる。
「僕の唯一の家族だからなお前は」
そう話しかけるも、チコにはさっぱりらしい。また寝てしまった。
「・・・冷たいやつ」
立ち上がり洗面所に向かう。顔を洗い、歯を磨く。寝癖は自然と直るからそのままだ。冷蔵庫から飲み物を取り出し、またあのソファーに戻った。
「ふぅ・・・」
そしてまた横になる。しばらくそのまま、時計の針を見ていた。今は午前11時前。何も考えずにただ眺めていた。次第にまた眠くなり、針の動きに吸い込まれるようにそのまま眠った。
× × ×
「・・・・・・」
音がする。それもかなり大きい。何処からだ?電話じゃないのは確かだ。音が自然とはっきり聞こえてくる。あぁこれは、玄関だ。誰かがドアをノックしている。誰だ。こんなところに。
「・・・・んぁぁ」
目が覚めた。時計を見る、時間は午後の1時を回ったところだ。約2時間近く眠っていたことになる。
「・・・ちょっと待ってくださぃ」
寝ぼけたような足取りで玄関まで向かう。玄関のドアには、中が丸見えにならないように少し薄く白いカーテンをしている。そのカーテンに映っていたものは、帽子の形だった。シルクハットのような。
「どなたですか・・・・?」
ドアをあける、ドアの向こうに立っていた男は、黒いスーツをきて、黒い例の帽子をかぶっていた。なかなかお洒落だ。
「レイニーさんのお宅だな?」
「そうだけど・・・あん」
「俺の名前はシューターだ。」
こちらから聞く前に向こうから名乗り出た。
「そうか、それで何のようです?」
「これを見ろ」
そう言って突きつけられたのは、束になった原稿用紙だった。
「・・・・・これは?」
「あんたが書いた、小説。それは俺が書いたやつだ。盗作したろ?」
いきなり盗作などと言う言葉を言われるのは初めてだ。しかし、盗作なんて身に覚えがない。
「・・・・はぁ?何を言ってるのかよく・・・・」
「その原稿用紙には、ある小説の話しの一部が書かれてある。それはもともと俺が書いたんだ。」
「そう・・それで?」
「それをあんたが盗んで、その話を乗せた本が売れている。」
「だから、言ってるだろ。僕は盗作なんてしてない。」
「じゃぁその証拠は?」
「身に覚えがない。」
「たとえそうだとしても、これでは俺の腹の虫がおさまらない。」
「熱心な読者には感謝するが、迷惑だ。帰ってくれ。」
「・・・・・・わかった、今日のところはこれで引き下がろう。」
そう言うとシューターと名乗った男は、家の脇に停めてあった車に戻っていく。
「何なんだよ・・・」
レイニーが家に戻ろうとした。その時
「いいか、これで終わったと思うなよ。またくるからな。俺は本気だぞ。あまり怒らせるなよ。」
シューターがレイニーに向かって叫んでいた。しかし、レイニーは取り合おうとはせず、玄関のドアを閉めた。原稿を放り投げソファーに寝そべった。
「僕が盗作を・・・?そんなばかな」
そう言い聞かせ、再び目を閉じた・・・・。
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