夜の色  作:りんとう

とある小さな村で、私は育った。
夜になっても街灯などつかず、本当に何もないところだった。
しかし、私はここが好きだ。
夜は月が星たちと瞬き、空はまるで群青色の天鵞絨に、きらきらと輝く宝石を散りばめたように美しい。
自然があふれんばかりで、私たちをやさしく包み込んでくれるのだ。
妻にそれを言ったときは、『ロマンチックな人ね』とクスクス笑われたものだった。

くせのついた文字の並ぶプリントに赤ペンを走らせながら、ふと窓の外を見ると、すでに夕日が顔を隠そうとしているところだった。
私は急いで鞄を持ち、一緒にいた同僚と小さな木造校舎から出て空を見た。

夕日が落ちれば、今度は暗闇がやってくる。
それはまるで、私たちから影を奪うかのように、すべてを黒く、冷たいものへと変えてゆくのだ。
そこに、熱く鉛色をした雲が、月を見せまいとしているように空を覆い、唯一の光源をかくし、私たちを漆黒の闇へと誘う。
それは舞台上で行われる寸劇のようでもあり、どこかの童話に出てきそうな光景だった。

「真っ暗ですね」

「早く帰らなくちゃですね。最近、熊が出たって聞きましたし」

「えぇ。それに、あまり遅くなると妻に怒られてしまう」

言いながら軽く頷いて、彼が何か言いたげにしているのを気にせずに、私は帰路についた。

――家につくと、まずは妻に謝る。
妻は心配症で、夕日の沈まないうちに帰らないと遅いと怒り出すのだ。
昔から心配症で、それにうんざりした時もある。
しかし、結局は妻のそんなところが可愛らしくて、愛しているのだ。

妻と私の食事をつくったり、あらかたの家事を終わらせると、すぐに布団にもぐる。

 私はこの村が好きだ。
 私はこの村の夜が好きだ。
 朝よりも、夜が好きだ。
 光は見たくないものを、鮮明に照らし出してしまう。

私は眼をとじ、望まない朝を迎える。
朝日が昇り、目覚まし時計にたたき起こされる。
テレビを見たり新聞を読んだりと、いやにゆっくりとした時間を過ごして、少ない生徒たちの通う小学校へと行く準備をした。

すべてを終わらせ、紫色の座布団の上に正座し、手を合わせる。



「行ってきます」


私は仏壇に飾られた妻の写真に向かって言い、家を出た。



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