Morgue ―1 作:Six
言い伝え―。
とある国のとある森。
そこに1つ、レストランが佇んでいる。
森の名前は「焼けた森」。
名前が過去形なのは本当にかつて燃えたからである。
その昔、その森が焼けたとき森にいた一人の男は死んでしまった。
しかし彼は人による恨みと憎しみで悪魔との契約をし、森ごと蘇らせた。
その日から、森の中に入った人間は戻ってこなかったり、運良く戻ってきた人でさえそのときのことを話そうとすれば体が拒絶するようになった。
大体の人々は、その話をする前に恐怖に息絶えてしまうのだ。
しかし、森へ入り、戻ってきた男が震えながら全てを話した。
彼は4人の友人と森へ入り、1人で戻ってきた。
レストランの名前は「Morgue(モルグ)」。
レストランには数人の男女がいた。
料理は全て美味なるものだった。
野菜に、肉に、美しいフルーツ。
厨房では誰かが楽しそうに話している。ウエイターとウエイトレスも話している。
まだ、「死んだ男」は現れない。
ただの伝承だったのかと思うと、1人の女が歌い始めた。
その歌こそ理解できなかったが、仲間たちは大喜びでその芸を見た。
しばらくすると、二人の仲間が立ち上がり、女の元へ歩み寄った。
止めるすべもなく、男が彼らの背中に赤と青の絵の具で印を描いた。
女が指を指す方向へ仲間二人がふらふらと歩く。
「少し具合が、悪いそうなので休んでいただくこととします。」
女がそう笑うと、それなら先に帰ると伝えてくれ。と頼む。
しかし、女はすぐ笑みを消した。
「か え る ?」
女の表情は人間のものとは思えないほど無機質へ変わった。
いや、恐ろしいほど感情のない顔だった。
ウエイターに強制的に座らされる。
男は隣の仲間に目配せし、"族長"とやらが来る前に一刻も逃げ出したかった。
暗い森をもつれるあしで走る。
何度こけそうになったことか。
そのとたん、何か恐ろしい音が聞こえた。
そう思えば、すぐ背後で仲間の悲鳴がした。
後ろを振り向けば、月明かりに何かがきらめく。
赤と、銀だ。
長身の男がそこに立っている。
「こんばんは。『 』。」
それが、彼の言葉だった。
全て話し終えた男は、後日、どこかへ消えてしまった。
「Morgue」とは「死体置き場」という意味だった。
ひとつモルグの屋根の下―
「族長、彼帰ってきましたよ。」
ウエイターの1人が無邪気な声を上げる。
窓の外をやけに楽しく見ている彼はやけに楽しそうだった。
一方の族長は、というと
「こちら、ステーキでございます。」
「ああ、レアかい。」
レストランの机に座って優雅に夕食をしている。
血が滴るほどのレアを切り一口食べる。
「で、その男はほかの男を"見殺しにした"やつかい?」
「ええ。族長がえーっと…アレっていった男です。」
「じゃあ青い丸つけときなさい。地下3階。その前に吉田のとこよってきなさい。」
「はーい。」
ウエイターは入ってきた男に青い丸をつけ、奥にある階段を上る。
族長はステーキを食べ終わると窓の外へと移動した。
漆黒のスーツ、赤紫の髪の毛、金の瞳。そして何より頭にきつく巻かれた包帯。
彼こそが「族長」とよばれる人物だった。
「族長!大変です!」
「なん。」
着物をきた少女が一目散に走ってくる。
その顔は驚いたような顔と戸惑いが混ざっている。
体のところどころ血がにじんでいるようにも見えた。
族長は何か納得したようだった。
「はいはい赤の間。まったく。青の間のほうが楽だという。」
「そりゃあの人がやりますですから。」
彼は血を全てぬぐった赤いチェーンソーを持って彼女の後についていく。
暗い階段をランプで照らしゆっくりと歩く。
「早乙女の方は。」
「毎日楽しそうですよ。1日1つはいりますから。」
「そのせいで赤が少なくなる。今日の青はまた後で入れろ。」
「はーい。」
赤の間と呼ばれる場所につくと、人の声が響いた。
それぞれが意識を持っているのかわからない。
人によってはウシのような声や豚のような声も出す。
奥につながれた1人の男は、族長を見るや否やうなり声を上げる。
「あらあらまるで犬だ。こりゃ。」
とりあえずといわんばかりに族長は男の頭に手をそっと置いた。
男はその手に唯一自由な首を動かし噛み付こうとした。
それを見て手を引っ込めると困ったように笑う。
「綾小路、いつからこうだ?」
「昨日からです。」
「睡眠薬は。」
「投与済みですがだめです。」
男を無視して話を続けると、男は噛み付くようにしゃべり始めた。
「ここはどこだ!いったいどうなっている!どうして"人が牛や豚のような声"を出す!」
その問いの答えたのは、先ほど綾小路と呼ばれた少女だった。
「ここは"赤の間"。あなたもあのダンスを見たでしょう?そして、あなたは"赤"と決まったの。」
「赤?どういう意味だ。」
「赤は"肉"。青は"魚"。緑は"肥料"よ。当たり前じゃない。」
幼い少女から発せられる言葉に男はハッとした。
族長は相変わらず冷たい顔をしている。というより眠そうだ。
先ほどからあくびを繰り返している。
「あなたは反逆するであろうから、ブラウンにバッテンつけられたのよ。その服についてるわ。」
「な、な、お前らは"人を食べているのか!"」
「ちょっと違うかな。」
ふと族長がその言葉に反応する。
男の目線にあわせゆっくり口を開く。
「全部は食べない。私は人の心臓しか食わないし、こいつらは魚と、少しだけ肉を食うだけ。そんな好き好んで人間の体なんて食わないし、人が多すぎても困る。大半は肥料だ。肥料はいくら合ってもいい。あぁ、でも多すぎると根腐る。そうだなあ。人間を食べるっていうか、私が心臓を食べるだけ。ああ、でも心臓病の人間は嫌だ。あいつらは毒が多すぎて食えやしない。お前らは、人間に"食べられる"方。ちなみに私はさっき食べてしまったからお腹いっぱいだ。」
無表情。淡々とつづられる言葉。
聞いているうちに男の顔は蒼白した。
そしてふと、族長は笑みを浮かべた。
「君はだめだな。あまりおいしそうには見えない。肥えても悪い油しか出なさそうだ。」
族長の手に握られたチェーンソーが動き出す。
男はさらに顔を青くした。
「ま、まて、や、やめろ、謝るから!」
「もう遅い。」
突如、男の首がはじけとんだ。
男の首から噴水のように血が噴出すと、力なく倒れる。
綾小路はちょっと悪そうに顔をしかめる。
「これどうするんですか。」
「肥料にするのもいたたまれないから裏に捨ててきてよ。私は眠い。お腹いっぱい。ああ、その首気に入ったなら上げるけど。」
「いらないです。」
その言葉が言い終わるか否や、彼は部屋から出て行く。
綾小路はため息をついたまま、掃除を始めた。
モルグ庭―
「族長ったらやること荒いなー。」
「本当に。でも仕方ないけどねー。今に始まったことじゃないし。」
1人の男が綾小路を手伝っていた。
彼は「鈴木」という男であって、掃除には彼の製作した人形が手伝っている。
地面に穴を掘ると人骨がバラバラと出てくる。それを無視して男を埋めた。
「僕らは族長に救われた身だからなんともいえないけどさ。」
「族長なりの救済なんでしょ。」
「だろうけどさー。」
「族長は悪口言うとすぐ飛んできますからやめましょ。この前もそれで1人生き埋めになったでしょう。」
彼らの愚痴を聞くかのように、隣で長鋏で枝を整えている男が言った。
「というか氷月さんもその1人だっけ。」
「僕は反抗しただけです。」
チョキンという音が切れると長鋏をたたみ、はしごを閉じた。
庭師である彼もまた、救われた存在なのだろうか。
「ここにいて、意識がある人は全て助けてもらった。もっとも、心臓の有無はわからないが。」
「トマト入れてるってうわさあるし。」
「私のは族長かじった。」
『あの人野菜食べれれるんだ。」
族長は謎が多い。
いつ、どこで、どうしたのかも不明な男だ。
誰も知らない、知りたくない。
知ったところでどうするところもない。
そういえば森に住む"蜘蛛"が何か知っているとか。
族長は眠らない。
休むことはない。
休んだとしても、彼にとっては1文もない。
何故こういうことをしているのかさっぱりだった。
「私、読んだことあるよ。"不思議の国のアリス"。族長ってなんだか"赤の女王"そっくりね。」
「首切るところ?」
「そう。」
御伽噺の住人?
「さーね。」
彼らは庭への通路を閉じた。
今宵、1人の少女が迷い込んだ。
レストランを見つけて、扉をノックした。
「いらっしゃいませ。」
扉が開けば、そこには男が1人。
不気味な笑みを浮かべている。
「ようこそ、モルグへ。お客様、お名前は。」
物語は、ここから始まる。
「アイリス。」
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あとがき
はじめまして、Sixです。
このサイトで小説を書いていこうと思います、まずは景気づけに1つ…
ちょっぴりグロいレストランに迷い込んだ女の子の物語です。
これはほんの序章です。
多分族長の本気は…もう少し。
では、失礼します。♪
コメント
3点 詩人 2011/09/16 19:53
おお〜
なかなかグロいですね(^^;)
次が楽しみです