生きるってやつぁ -1- 作:彼方
――生きるって何なんだろうな。
ボーッと空を見上げてた。そんな私の耳に突然入ってきた問いかけ。
なんだ?そう思って横を見ると、約5m離れた場所で私と同じように座って空を見上げる男の人が居る。
その人は夏にも関わらず長袖長ズボンの服装で、しかも帽子にサングラス、マスクをつけていた。
男にしては少し高い声。年齢は、分からない。
「そんな感じ?」
「…?」
「アンタが今思ってたこと」
こちらに顔を向けることもしない彼に、私はただ驚くだけだった。
だって私は何も考えてはいなかったし、況して私は「生」について疑問を持つような性格でもなかった。
体のほとんどを隠していて、そして意味不明な発言をするこの人物。明らかに不審者同然の彼だったが、不思議なことに私はちっとも引いたり顔をしかめたりすることも無かった。
寧ろ少しばかりの興味が沸いている。本当に何故か。
「ううん、何も考えてなかった」
「へー…。顔に書いてたんだけどな」
「でも思ってない…」
「じゃあ気づいてないだけだ」
こちらを向いた彼。顔なんて見えないのに、微笑んでる…そう感じた。
「気づいてない…?」
「あぁ。なんなら当ててやろうか?」
「…?」
「アンタ……、生きるのが辛いと思うときがあるだろ?」
「…!」
「それも軽く考えていない。だからそこまでの傷をつけることが出来たんだろ」
トントン、と自分の左手首を指差され、私は咄嗟に右手で隠した。
しまった、見られてた。しかもいつの間に…。
「……ま、バカな事は考えないことだな」
「……」
「考えるだけで無駄だ」
「…そんなの分からないじゃんか」
「……」
「…貴方にとっては小さな事かもしれないけど、私にとっては大きいことだよ!」
私にも分かっていた。
まだたった17年しか生きてないくせに、今自分が死にたいと考えてしまうほどの悩みは実は大人から見たら下らないものだと分かってるくせに、そんなことを考えてる自分が酷く滑稽だということを。
それでも、私の中では今が精一杯だった。だって他を知らないのだから。
「…へっ、馬鹿馬鹿しー」
「…、貴方になにが…」
「分かるわけないだろ、オレはアンタじゃないんだから」
「…っ…」
「…ま、今のアンタには何言っても無駄だろうけど」
よっこらせ、と地面に手をついて起き上がる男を見ることもせずにただ左手首を握りしめる。
どれぐらいそうしてただろう。
もう彼は居なかった。
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