Fear〜中盤〜(7)  作:癸 洲亜

 開かれた手の平は、黒く染まっていた。夜で暗く光があまり届かない闇の中にいたとしても、黒すぎる。その手の平だけ、黒かった。綸はその手の平に顔を近づけた。手の平についているものは何なのか、知るために。すると、具体的なものは分からないが、それは純粋な黒ではないことに気付いた。少し、赤みを帯びている。赤黒く見えた。色に気付いた瞬間、鉄のような臭いが綸の鼻をついた。それで綸は気付いた。それが血だということに。
「ひっ……!」
 驚きと一層強まる恐怖に、綸は後ずさる。このリビングから出ようと思った時、誰かが綸の上着の裾を引っ張った。
 綸は固まる。リビングには綸一人しかいない。上着の裾を引っ張れるような者は、いないはずだ。
 一体、誰が引っ張っているのか。説明のつかない疑問が、綸の頭を思考を支配する。心には恐怖で叫びたい気持ちがあるのに、声は出てこようとしない。
 それを、見てはいけない。
 心では頭では、それが分かっている。だが、体はそれとは裏腹に引っ張られている方を向く。裾を引っ張っている誰かが、綸の視界に入る。
 それは、子供。
 小学2年生くらいの、長い髪を二つ結いにしている女の子が俯いたまま、綸の上着の裾を掴んだ状態で立っていた。
「……!」
 綸には、この少女に見覚えがあった。綸の記憶と判断が正しいのならこの少女は、あの絵に描かれていた無邪気に笑っていたあの少女。だが、綸がリビングにいた間誰かが入ってくるような物音はしなかった。いつ、この少女が入ってきたのか、分からない。なぜ、今自分の目の前にこの少女がいるのかも綸には分からなかった。今の綸に分かることは、目の前で起こっていることは有り得ないことであるということ。立て続けに有り得ないことばかり起こることに対して、自分の意思に背いてまったく言うことが聞かない自分の体に対しても、苛立ちと嫌悪感を覚え綸の心の中で入り混じる。
 現状を理解する暇を綸に与えぬまま、少女はゆっくりと動き出す。ゆっくりと顔をあげる。少女は、青白かった。生きている気配など微塵も感じさせず、まるで人形のようだった。それ以外に変わったところなどなく、あげられた顔は無表情で落ち着いている。
 その顔を見た瞬間、なぜか綸の心はふっと軽くなった。まるで、安堵した時のように。静かに少女を見ていると、微かに少女の口元が動くのが見えた。その後、少女は表情を一切変えず、口を動かして言った。
「あ……そ……ぼ」
 少女の声はよどみが無く、抑揚すらなかった。
 綸はそれを聞き、その少女に言いようのない恐怖を感じた。見たくないと思っても、顔を背けることは体を動かすことはできない。
 そんな綸を嘲笑うかのように少女は、今度はしっかり抑揚をつけて、綸の上着の裾を掴んでいる手に力を込めて、こう言った。
「いっしょにあそぼ、おねえちゃん」
 少女は言下、口角をつり上げて不気味に綸に笑って見せた。そして、裾を掴んでいない方の手を、ゆっくりと綸に向かって伸ばす。
 少女は、再度綸に言う。
「あーそーぼ」
 ゆっくりと伸ばされた少女の手は、綸の左手首を捕らえた。
「きゃああああああああああ!!」


コメント

3点 雨月千夜 2011/07/29 12:08
こえええええええ!!
としか言いようがないです…
自分だったら卒倒してますね、絶対。

癸 洲亜 2011/07/29 13:26
コメント、点数ありがとうございます、

怖いですか、良かったですwww
多分私も卒倒するでしょうなwwww

3点 2011/08/01 17:26
んな話考える何て、俺に恨みでもあんのか(笑


3点 沖田 2011/08/01 21:16
ぎゃぁああああああああああああああああああwwwwwww←

3点 沖田 2011/08/01 21:16
ぎゃぁああああああああああああああああああwwwwwww←

癸 洲亜 2011/08/03 09:20
コメント、点数ありがとうございます、

慎>いや、どういう意味ですかwwww 恨み……ねぇ(笑)


沖田さん>な、どうしたんですかwww
叫ぶ=怖がってる、と受け取りますから(*^▽^*)

3点 2011/08/05 23:56
ええ、ちょ、馬路かよorz 
うんいやホラーでもどんとこいだ、おし!

癸 洲亜 2011/08/09 17:50
慎>誰もマジだなんて言ってないじゃないwwww
それじゃあ、遠慮なくホラーを載せさせていただきますヽ(・∀・)ノ


Novel Place CGI-Sweets