HEAVENS BREAK 作:雨月千夜
第88話「漂流」
「ん………」
竜崎はうっすらと目を開いた。
うっすらと目を開けた状態でも分かるくらい、空は晴れていた。目を開けると眼前に広がるのは真っ青な空。自分が寝そべっていることに気付くのに何秒もかかった。
「………ここは」
身体を起こすと、自分は砂浜に居た。目の前には海が広がっていて後ろには森がある。もしかして無人島?と竜崎が表情を引きつらせていると、森のほうから一人の人物が姿を現す。
紫色の長い髪に、長身の女性。村雨氷雨だ。
「村雨!?」
「……起きたの。何とか無事なようね」
竜崎の顔を見て村雨は僅かに表情を綻ばせる。
「なあここって……」
「ええ」
村雨は竜崎が何を言いたいのか理解したのか、彼の言葉を最後まで聞く必要は無く、途中で頷いてみせる。
「無人島のようね。幸か不幸か、私達はここに漂流したようよ」
竜崎と村雨は森の中へ入っていき、散策を始めることにした。
森の草を掻き分け、とりあえず数日過ごせるような場所を探していた。
「なあ、俺とお前が無事って分かったけど、夕那達はどうなんだ?」
「しくじってなければ大丈夫」
しくじって?と竜崎は首をかしげる。
村雨は草を掻き分け、歩きながら説明を続ける。
「私達が海へ放り出された際に、私と菊池は海水を操り、お前等を拾い上げ、この島へ放り投げた。私が掴んだのは、お前と灰月と緑川。菊池が拾ったのは残りの奴らだ」
そういうことか、と竜崎がここで納得する。
村雨はふぅ、と息を吐いて、
「本来ならば、神の力である私が多くの人間を受け持つべきだったんだが、勘が鈍ってたな。私がお前たちを拾ったときは、既に菊池が残りを助けていた。情けない」
「……そんなことねーよ」
村雨はその言葉にはっとして、竜崎の方を見る。
「お前がいなきゃ俺も溺れてたわけだし……卑屈になることはねーよ。ヒナなら心配いらねー。アイツは何だかんだで結構やる女だぜ」
「アイツのこと、割と信頼してるのね」
まあな、と竜崎は一度区切って、
「何ていったって、アイツは俺の幼馴染だからな!」
そうか、と村雨は納得する。
草を掻き分け、歩いていると二人は湖へと到着する。
「……なあ、竜崎」
「何だ」
「……その、水を浴びてもいい?ちょっと、気持ち悪くて……」
大雑把に島に漂流したため、竜崎達は砂が嫌というほどついていた。
竜崎も村雨もそれは同じで、村雨は特にそれが嫌らしい。
「いいよ。先に行っても」
「すまない」
村雨は湖へと歩いていき、竜崎の方を睨みつけるように振り返ると、
「覗くなよ」
覗かねーよ、と竜崎は背を向けて、そう答える。
竜崎が夕那達の安否や、襲ってきた『ポセイドン』と名乗る奴らのことを考えていると、後ろから『きゃあああっ!?』と甲高い悲鳴が聞こえてきた。
竜崎は、湖の方へ向かって、
「村雨?どうした!?」
入ってくるなり、村雨が飛びついてくる。
それに顔を赤くする竜崎だが、村雨は震えたまま、湖を囲む森の方を指差し、
「だ、誰か……っ!誰か、いる……」
竜崎は指差した方向を見るが、人影どころか、気配も無い。
「安心しろ。もういねーみてーだぞ」
「……ホント?」
ああ、と竜崎が頷くと安心したらしく、村雨が竜崎から離れる。
が、村雨はタオル片手に裸状態で、竜崎から離れると当然、真正面から見える絶好の位置に竜崎は立っていることになってしまう。
村雨は無言のままタオルで前を隠し、顔を赤くして俯くと、
「………貴様ッ…あれほど………!!」
村雨の手の平に、水の球体が作り出される。
竜崎は逃げる体勢を取りながら、弁解を怠らない。
「いや、ちょ、待ってくださいよ村雨さん!そりゃ俺にも非がありますけど、悲鳴がしたら当然気になるわけでさらに貴女は抱きついて……ッ!」
「まずは謝れぇぇぇッ!!」
竜崎の弁解も虚しく、村雨の水の球体は容赦なく彼を襲う。
その場には大きな水柱が立った。
コメント
3点 ゆき 2011/08/15 16:13
すごく面白いです(^^)
続きが楽しみです♪