HEAVENS BREAK 作:雨月千夜
第84話「打倒炎(ブラストバーン)」
如月の黒い炎の固まりはかなり膨張しており、一撃で竜崎達を影も残さず消し去るほどの力を見せていた。
如月は確実な勝利を前に笑みを浮かべずには居られなかった。
歪み、引きさかれたような、狂った笑みを浮かべながら、
(勝てる勝てる勝てる勝てる勝てるぞぉっ!!これで俺たちが、『予言者』が望んだ理想の席が構築されるッ!忌々しき炎の神は消える!全員で攻めれば雷の神も水の神も消すことは可能だ!!)
勝った後の作戦を考えている如月に、最後の一撃の合図が放たれる。
「終わりだ、如月!!」
「ほざけぇ!!」
竜崎が開いた右の手の平から真っ赤に燃え盛る巨大な炎を、如月が限界にまで膨張させていた黒い炎の塊を。最後の一撃として放つ。
ゴゥッ!!という大きな音ともに赤い炎と黒い炎がぶつかり合う。激しい烈風を生み、地面に亀裂を生み、竜崎と如月の両者の足が徐々に後ろへと下がっていく。
「ぐ………おぉ………!?」
力に押され、竜崎が負けそうになる。
だが、後ろで支えている青葉達が更に彼を支える手に力を加える。
「……まずい、ですね…」
「如月の野郎……、まだ力を…?」
「………負けるな」
思わず弱音を吐いてしまう緑川と灰月に、そして歯を食いしばって堪えている竜崎と桃井にも檄を飛ばすように青葉は叫ぶ。
「……これが、私達の力だ。ここで押し負けるな。赤い炎は黒い絶望を打ち砕く!それだけを信じろ!諦めるのは私が許さない!!」
その言葉に全員が更に力を込め、炎の威力が増す。
竜崎は歯を食いしばり、如月に叫ぶ。
「………ぐ、おおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
竜崎の炎は如月の炎を押し返し、黒い炎を赤い炎が包み、如月の身体へと襲い掛かる。
「ぐああああああああああッ!?」
自分の身体が炎に包まれ、焼ける痛みに如月が叫びを上げる。
『愚かな男だ』
如月の耳に女の声が届く。
それは綺麗な透き通っている声で、如月をあざ笑っているようにも思える。
女は続けて、
『よくも薄汚れた「魔の力」などで、私達を消そうとしたものだ。貴様には死よりも恐ろしい苦痛……そーだな。貴様の醜悪な力の根源、消させてもらう』
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
『神をなめるなよ」
透き通った声を持つ女は、ぞっとするような冷徹な言葉を浴びせ、如月の炎を根こそぎ奪っていく。
彼を包んでいる赤い炎が消え、彼の眼前に赤村夕那が立ちふさがる。
「…………………………ッ!」
如月はいきなりことで絶句する。
炎を出そうにも、さっきの女に炎はもって行かれた。反撃しようにも、間に合わない。かわそうにも足が動かない。倒そうにも、それだけの力が残っていない。ぐちゃぐちゃになった如月の頭の思考を払拭するように、赤村夕那は如月の頭へと強烈な一撃を叩き込む。
ゴドン!!と夕那の蹴りが如月の頭のてっぺんに突き刺さり、如月の顔が地面へと埋まる。
竜崎はそれだけを見ると、安心したように笑みを浮かべ、そのままドサッと倒れてしまった。
竜崎は病室で目が覚める。
横に居るのは見慣れた赤い髪の少女だった。
「あ、目覚めた?」
竜崎は視線を夕那の手元へと落とす。
手にあったのは皿にのせられた切られた林檎。まるで自分が起きるのを待ってたみたいに、彼女の手にスタンバイしてあった。
夕那は笑みを浮かべまま、皿を病院食を食べるための机に置いて、
「大丈夫?」
ただ一言竜崎にそう聞いた。
「………お前こそ大丈夫かよ。黒宮のお陰とはいえ、まだ痛んだりするんじゃねぇのか?」
目覚めた瞬間はね、と夕那は言って、
「『予言者』の基地に乗り込むために走ってたときに痛みは消えていったの。ほら、完全に傷も塞がったし」
ここで竜崎はぎょっとする。
当の夕那は気付いていないが、彼女は無防備にも制服をめくって腹の部分を見せる。お腹の部分とはいえ、そう簡単に見せびらかしていいモノではないと思う。
竜崎は顔を赤くして目を逸らし、
「お、女の子がみ、みだりにお腹を露出するのはどうかとおもいますけど………」
ひゃぁ!?と甲高い声を上げて、ようやく自分が行っていることはかなり気恥ずかしいものだと気付いたようで安心した。顔を赤くして、服でお腹を隠す。
「………………………………見た?」
「お前が見せたんだろ」
夕那はさらに顔を赤く染め、すっかり俯いてしまう。
俯いてた夕那は自分のすべきことを確認して、顔を上げ、この空気を払拭するために、今回の件の事後報告を開始する。
「今回、『予言者』の海藤水色、朱子泊亜、朱子黒衣は一旦『組織』と『鉤崎』に預けられることになったわ。如月は何処に行ったかわかんないって」
ようは行方不明って奴ね、と夕那は付け足す。
「そっか。出来ればどっかで見張ってたほうが良かったんだけどな」
それだけどさ、と夕那は再び口を開く。
「アイツの力は『天への獄炎(ヘヴンズフレイム)』が焼き尽くしたって。だからもう今回のようなことは起こんないから大丈夫よ」
夕那は胸の前で軽く拳を握る。
そっか、と竜崎は小さく頷いて、窓の外へと視線を向ける。
広がるのはいつもと同じ光景。『魔の力』に怯えるものも、増水した川に飛び込み、命を絶とうとする少女も、力を悪用しようとするものもいない、平和な世界。
竜崎は夕那の顔を見つめて、一言告げる。
「………ありがとな」
ふん、と夕那は僅かに顔を赤くして、目を逸らす。
そして、夕那は小さく口を開いて。
「………こっちの台詞よ、ばか。………………ありがと……」
予言者編 完。
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