HEAVENS BREAK 作:雨月千夜
第83話「支え」
如月は口の端から垂れている血を手の甲でふき取り、目の前に立っている、竜崎恭弥と赤村夕那という忌々しい敵を眺めている。
竜崎にいたっては満身創痍といえる状態まで追い詰めた。手っ取り早く竜崎を消して、すぐに赤村夕那を倒し、下にいる桃井桜と緑川風子も倒せるはずだった。
なのに、赤村夕那が復活しただけで、竜崎にここまでの動きの違いが出るとは予想外だった。
だが如月はそれでもまだ『諦める』という恥辱にまみれた行動は取らなかった。
「………く、ははははははは」
如月の口から漏れたのは、微かな笑いだった。
「はははははははははは!!君達は本当に愉快だ……!」
如月は笑いながらそう言う。
竜崎と夕那も警戒を解くことが出来ず、まったく隙を見せない。
如月は両手を上に挙げて、手の平を広げる。
「最高に楽しめたよ!だが、そんな宴も終わりだ!ここで君達は……灰となって消え失せろ!!」
如月が吠えた瞬間、如月の両手に黒井い炎の球体が生み出される。その炎の球体は徐々に巨大化していき、いつか大きなどす黒い炎の球体と化していた。
「な………ッ」
竜崎と夕那が目を大きく開かせて、目の前の光景をしっかりと捉える。
「君達は本当にいい役者だった!!だが、もう終わりだ!この炎に包まれ、焼き尽くされるがいい!!」
「くっそ……!」
「あとちょっとなのに……」
竜崎と夕那を歯を食いしばる。
竜崎の炎では防ぐのは無理だろうし、夕那の能力を使った銃撃でもあれをどうにかするのは不可能だ。
もうダメだ、と竜崎が諦めかけた時、
『私が手を貸してやろうかと逡巡してる時にそんな情けない顔をするな。余計に力を貸したくなくなる』
竜崎と夕那の耳に透き通るような女性の声が届く。
竜崎が横へと視線を向けると、炎により体が形作られた『天への獄炎(ヘヴンズフレイム)』の本体がそこにいた。
「………レイム…」
『ふん。そこの小娘がやられた時の貴様は見るに堪えないほど腑抜け「僕どーしたらいーんだろ」みたいな顔をしていたが』
テメェ、と今にも殴ってやるぜという感じで握りこぶしを用意する竜崎にレイムは、
『……今なら良いだろう。あの炎を消す、力をくれてやる』
「本当か?」
レイムは竜崎の言葉に静かに頷いた。
だが、とレイムは前置きをして、
『今から出す炎はかなり強力だ。それ故に、撃った後の反動が大きい。貴様も堪えられるか分からないし、私にいたってはしばらく出てこれんかもしれん。それでも……』
「やるよ」
竜崎はレイムが何を聞くか分かっていたかのように彼女の言葉を遮ってそう返す。
「やらなきゃいけねぇんだ。アイツだけは。アイツは、必ず倒す!!」
『それでいい。今の貴様が、私の知る竜崎恭弥だ』
レイムは竜崎の身体にもぐりこむ。
竜崎は右腕を前に出し、手の平を広げ、右腕を左腕で抑え、如月に狙いを定める。が、
腕の震えで上手く狙いが定められない。
(……ちくしょうッ……!血を流しすぎた………。これじゃ……ッ)
竜崎が歯を食いしばると、自分の左腕、両肩、そして背中を支える手の感触が伝わる。
竜崎が視線を向けると、気を失っていた、青葉、そして倒れていた灰月、さらには下で戦っていた桃井と緑川が自分を支えてくれていた。
「……踏ん張れ、お前しかいねぇんだよ」
「皆、貴方を信用してるのよ。だから、意地を見せなさい」
「私は、最後まで貴方を信じさせてもらいます。せめて、信じてよかった、と感じさせてください」
「………主」
青葉は僅かに息を荒くして、言葉を紡ぐ。
「……夕那がここにいる理由、それは今は問いません。だから、終わったら、全て話してください。そして、夕那を交えて勉強会でもしましょう」
青葉の言葉を聞き、竜崎は笑みを浮かべ、
「ああ。そうだな」
如月は炎をより一層大きくすると、投げる体勢を整える。
「消え去れ!忌々しい神の力がァ!!」
「消えんのはテメェだ!!如月ィ!!」
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