HEAVENS BREAK 作:雨月千夜
第82話「復活」
「…………な」
突如、現れた思いも寄らぬ人物を前に如月火炎のみならず、灰月と竜崎までも驚愕をあらわにしていた。
その様子に夕那は僅かに面食らった顔で、
「……何よ、何なのよ」
と戸惑っていた。
「ふふ」
やがて如月が落ち着きを取り戻し、口を開く。
「くくく……。面白い。死者が再び俺の目の前に現れるとはな」
その言葉に夕那は銃を構える。相手を真っ直ぐに睨みつけ、ただ銃を構えている。
「いやぁ、これは面白いな。幻覚でも、そっくりさんでもなさそうだ……。今、確かに俺の目の前には赤村夕那が存在している」
如月は口元を歪ませながらそう言う。
その光景に灰月も竜崎も夕那も、顔を顰め、注意していた。
「何よ、一体何が言いたいわけ?」
「別に」
夕那の質問に如月は簡単に返す。
ただ、と如月は続けて、
「理屈が分からない。何故生き返った?」
それは、恐らく全員が思っていることだろう。夕那は倒れている青葉をお姫様抱っこで壁にもたれさせる。
「そうね、簡単だよ。恭弥も、灰月君も気付かなかった?私が死ぬとき、病室に霧坂さんがいなかったことに」
そう言えば、あの時、いつも何処にでもいるような霧坂百合がいなかった。夕那が如月の炎に貫かれたときもすぐに駆けつけていたのに、あの時はいろいろあって、霧坂がいないことにさえ気付けなかった。
「あの時、霧坂さんはある人物を探してたのよ。死者を蘇生できる能力を持つ人………ここまで言えば分かるでしょ?」
夕那はそこまで説明して一度言葉を区切る。
竜崎達は思い当たるまでにほとんど時間がかからなかった。
死者を蘇生できる人物。竜崎が『予言者』と接触する前に出会った一人の少女。如月達が狙っていた、一人の少女。
「そう、黒宮明日香」
そこで竜崎達は目を大きく見開く。
「霧坂さんは、明日香ちゃんを探すために病室に来れなかった。そして、恭弥やヒナちゃん達が病室を出た後、明日香ちゃんの能力で私は生きることが出来た。明日香ちゃんの死者の蘇生時間の有効時間は死後から111時間。充分すぎたわ」
夕那は獰猛に笑いながら告げる。
そこで如月は歯噛みをし、もっと早く黒宮を捕らえていれば、こんな面倒ごとにはいたらなかった、と言わんばかりに、悔しさをむき出す。
だが、如月はすぐに余裕を見出した。
「そうか……黒宮が……」
状況を把握した竜崎に夕那は手を差し伸べる。
「はい、立って!如月倒すよ」
竜崎は一瞬だけ、目を閉じて、やがて立ち上がろうと力を込める。
「……一人で立てる…!」
竜崎は一人で立ち上がり、頭をかきながら夕那に訊ねる。
「夕那。お前、何か言うことあるんじゃねぇの?」
夕那は僅かに考えて、やがて気付き笑みを浮かべて、
「ただいま!」
「おかえり」
二人はそれだけ交わすと如月を真っ直ぐに見据え、
「さあ行くよ恭弥!」
「とっととこいつぶっ倒して、早く帰ろうぜ!」
その様子を見ても、如月は全く動じない。
何故なら、
(ふん、赤村夕那が生き返ったのは計算外だが………焦る必要も喚く必要もありはしない。何故なら、竜崎恭弥はすでに大ダメージを負っている。倒すのは時間の問題だし、『魔の力』があれば赤村夕那を倒すことも容易だ)
如月は密かに笑みを作りながらそう思う。
竜崎は炎を拳に纏わせ、如月に殴りかかる。
ガッ!!と竜崎の赤い炎を如月の黒い炎で防ぐ。
が、今までと違い相殺しない。いや、相殺できない。
(……馬鹿な!赤村夕那が戻ったことで…本来の力が戻っている?)
竜崎により、黒い炎を消され、竜崎の拳が如月の頬へと突き刺さり、数歩後ろに下がる。
そこへ更に、赤村夕那が突っ込み、彼の顔面へと狙いを定め、回し蹴りを繰り出す。
(ぐ………こいつらぁ……!)
蹴りを身をかがめ回避するが、元の体勢に戻った瞬間に、夕那の銃身での打撃が顔の側面へと叩き込まれる。
「がぅ…………!」
よたよたとよろめき、如月は銃で殴られた方の顔を抑えながら顔を顰める。
(…こ、こいつら……!)
「お前、まだ完全回復してねーんじゃねぇの?動き鈍ってんぞ」
「しょーがないでしょ、一応病み上がりだし」
二人はそんな会話をし、如月を見つめる。
(……コンビネーションが完成されているだと……!?)
二人の息は完璧というほどまでに噛み合いすぎていた。
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