END TIME  作:詩人


聞こえる波の音。

彼は浮き輪に乗っている私に水をかけた。

私も意地になってやりかえす。

海の家では、風鈴の音が静かになっていた。

心地良い。

そういう夢を見ていた。



並木は紅葉で鮮やかに彩られている。

彼は私に無邪気な笑顔を見せる。

私はこの笑顔に惹かれていたのだろう。

私もつられて笑顔になっていた。

楽しい。

そういう夢を見ていた。



降り積もる雪の上を、二人で歩いている。

深々と足が雪に刺さって、彼は何度も転んだ。

私はその滑稽な姿を笑った。

彼は少し怒った様子を見せたが、笑いかけてくれた。

優しい。

そういう夢を見ていた。



ベッドの上に、二枚の桜の花びらが迷い込んできた。

彼はそれを拾い上げて、外へ放した。

花びらはふたり、寄り添いあうように舞っていた。

私は、その様子に見とれていた。

美しい。

そういう夢を見ていた。



私の側に、彼がいない。

窓の外は暗く、月が雲の間から顔をのぞかせている。

わかっている、夜だから、仕方ない。

私は枕を抱きしめた。

寂しい。

そういう夢を見ている。



目を開けると、彼がいた。

心配そうな顔で私の顔を覗き込む。

私は、彼に笑顔を見せた。

彼も、それを見て笑った。

強がっていた。

そういう今がある。



次に目を開けると、彼は俯いていた。

彼は、私が見ていることに気づくと、笑顔を見せた。

無理して、笑っていた。

それを見て、ようやくわかった。

そして、私は彼に言った。







ごめんね。

ありがとう。







私の時間が、止まった。


コメント

詩人 2011/06/13 22:55
とある曲に衝撃を受けまして、
その曲からこの詩を作りました。

病気を患っている『私』とその彼氏『彼』とのお話です。


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