HEAVENS BREAK  作:雨月千夜

第79話「魔風」
 
 『予言者』の本拠へ向かう道。話しかけ辛い雰囲気の竜崎の後姿を緑川は静かに眺めていた。
 その視線に気付いた桃井は視界の端に緑川を捉え、
 「……止めておきなさい。今貴女が何を言おうと竜崎の耳には届かないわ」
 その言葉に開きかけていた緑川の口が縫い付けられたように閉じる。
 桃井は続けて、
「貴女じゃなくとも青葉や灰月、私の声も幼馴染の菊池の声さえも届かない。届かない、より……届けられないの方が正しいのかしらね」
 桃井は皮肉そうにそう言うと、『予言者』の本拠へと到達する。
 城のような外装の建物は黒一色で不気味な雰囲気をかもし出していた。
 その扉の前に仮面をつけた銀髪の髪の男だ。
「来たか。如月火炎の撃破か………もしくは、赤村夕那の仇討ちか?」
 男の嘲るような言葉に竜崎の眉がピクッと僅かに動く。
 男はその様子に気付かずに、
「無駄だ。如月はお前らには倒せまい。いや、ここでやられる貴様等には……挑む価値も無い」
 男は仮面を取る。
 その顔は竜崎達のよく知る顔だった。
 暗部組織『マーズ』のリーダー。竜崎によって倒され、顔に右の額から左頬にかけて斜めに傷が入っている男。
 東雲雪丸。
 だが、彼にしては可笑しな点があった。
「……それではおかしいです!彼の能力は魔の力ではありません!一体どうして……!?」
 能力とは本来一人に一つしかないもの。二つの能力を使用することは脳への負荷が深刻になってしまうため、身体が耐えられなくなってしまうのだ。だが、竜崎も炎以外に光の能力を所有しているようだが。
 かなりの動揺を見せる緑川に灰月はゆっくりと口を開く。
「魔の力ってのは能力の譲渡が出来るのさ。神の力と違うところはそこだ。神の力の場合は宿主が死なねぇと意味ねぇが、魔の力は無条件で譲渡が出来る。もっとも能力の交換に過ぎないがな」
「その通り。今の私は魔の力を使うことが出来る!竜崎恭弥など敵ではない!今度こそこの手で……」
 東雲の言葉が詰まる。
 目の前に竜崎が立っていたからだ。
「……………………あ?」
「ぐだぐだくだらねぇことを……どーでもいいんだよ、んなことは」
 竜崎は鋭さを増した眼光で東雲を睨みつける。
 だが、東雲はそれで怖じるような男ではない。
「……何だよ」
「どけよ」
 東雲の言葉に竜崎は一言だけ告げた。全身から溢れるような怒りで目で、拳で、全身dで。口だけでなく言外に「どけ」と告げていた。
「ふふ。それは私を倒せたらのはな……」
 ゴッ!!と丁度東雲の胸の中心に食い込むように竜崎のただの拳が叩き込まれる。
 東雲の呼吸が一瞬止まり、そのまま後ろへとゆっくり倒れていった。そのまま東雲は嗚咽を漏らすだけで起き上がらなかった。
「邪魔なんだよ」
 竜崎は振り返りもせずに、
「行こうぜ」
 東雲を一撃で叩き伏せ、竜崎は扉へと手をかけ、強引に開け放つ。
 そこには二人の女が立っていた。
 朱子泊亜とその彼女の妹である朱子黒衣(しゅす こくい)。
 二人は戦意を思い切り向けている。
 そこへ、二人の女が前へ出る。
「竜崎、青葉、灰月。ここは先へ行きなさい。私達が何とかする」
「ここは、お姉さん達に任せてください」
 前へ出たのは桃井と緑川だ。
 妙に自信に満ち溢れた顔で二人は前へ出ている。
「ああ。分かった」
 普通は止めに入る竜崎が、大人しく従った。それほど如月が憎いらしい。竜崎はそれだけ告げると後ろにある扉へと駆けて行く。それにつられ、青葉も走るのだが、灰月は走らずにしばらく緑川を見ていた。
「何をしているのです?早く行ってください」
「………ああ、分かった。死ぬなよ」
「………死ななかったら、何かくれます?」
「………ああ。抱きしめてやる」
「冗談です。無理しなくてもいいですよ」
 そういうやり取りの後、灰月も扉へと向かう。
「行かせるか!」
 追おうとする泊亜の身体に鎖が巻きつく。
「……おっと、貴女の相手は私でしょう?」
 桃井の刀の柄から出ている鎖が泊亜を捕らえている。
「……面白い」

「………。善悪とは何か。そう問われたヒーローは答えることが出来ない。何故か。それはヒーローの心にも自分も悪いことをしているのではないかという疑念があるからだ。守るためとはいえ、怪物を消し去る・・・、これを悪といわずなんと言おう。今回の我等もそうだ。我等は悪に見られているが明らかに人数が多いお前らが攻め入るのは可笑しくないか?これはただのリンチだ」
 如月の言葉は誰かに諭すように言っていた。
 恐らくその相手は彼の後ろにある入り口に立っている人物にだ。
「知るか、そんなこと。そんなものお前の意見だ。私には関係ない」
 立っている人物、青葉冷はそう斬り捨てた。
 如月はフッと笑みを浮かべ、
「最初は君か。君には興味がないんだが………まあいいだろう。竜崎恭弥が来るまでの時間稼ぎだ」


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