HEAVENS BREAK 作:雨月千夜
第78話「仇討ち」
夕那が死んでから約10時間が経過していた。
公園のような広場で四人の人影が集まっている。そこへ一人の人影が参入する。
竜崎恭弥だ。
その他のメンバーは青葉冷、緑川風子、灰月臨、桃井桜だ。彼らは今から「予言者」の本拠へと向かおうとしている。理由はただ一つあれば充分だった。
赤村夕那の仇を討つため。
9時間前。
まだ病室にいる竜崎達は話をしていた。竜崎は椅子に座り、俯いて思いつめていた。
そこで彼は決心し、
「……俺は『予言者』を潰す。一人でも」
その言葉に誰もが振り返る。
やはり、夕那を殺されたことにより竜崎の怒りは抑えが効かなくなっていた。
その言葉を受けて、背中に背を預けていた一人の少女が口を開く。
「主が行くと言うなら私も行く」
冷たい眼光を見せる青葉だ。
竜崎に埋もれて若干薄れていたが、彼女も竜崎と同じくらいの怒りを感じていたのだ。
「行くのは俺らだけでいい。お前らはここに………」
「馬鹿かお前ら」
竜崎の言葉を灰月は短い言葉で遮る。
灰月は腕を組んだ状態で、
「お前ら二人で行っても犬死にするだけだ。怒りに任せて殴ったところで、倒せる相手とも限らねぇだろ」
竜崎は思わず椅子から立ち上がって、
「じゃあどうしろってんだよッ!夕那が殺されて、このまま黙って―――ッ!」
竜崎の言葉は途中で遮られる。
緑川が後ろから竜崎の肩に手を置いて制止させたからだ。彼女は冷静を促すような瞳で竜崎を見つめる。
「落ち着いてください。とりあえず私もついて行きます。灰月さんも、ついて来てくださりますよね」
緑川は灰月へと視線を向ける。
「……いいだろう。お前らだけじゃその方が良さそうだしな」
「なら私も行くわ。貴方達だけじゃ心許ないもの」
そう言い出たのは桃井だ。彼女は腕を組みながら座っていたのだが、腕を組みながら椅子から立ち上がる。
「私も!私も行くよ!」
そう言いながら桃井のスカートを下からぐいぐい引っ張るのは黄山だ。彼女は夕那が死んだ理由を知らない。だが、竜崎の敵=自分の敵と思っているのだ。
そんな黄山に桃井は溜息を漏らし、
「……ゴメンね雷花。今回貴女は連れて行けない。私は貴女に傷ついて欲しくないのよ」
桃井は彼女の肩に手を置いてそう言う。まるで、母親が子どもを落ち着かせるように。
「で、でもでもっ……!」
「大丈夫です」
黄山の身体がひょいっと持ち上げられる。後ろから菊池が彼女を持ち上げたのだ。持ち上げられた黄山は『ひゃっ!?』と甲高い声を漏らす。
「雷花ちゃんは任せてください。会長は恭弥達と一緒に……必ず戻ってきてくださいね」
桃井は僅かに口元に笑みを浮かべ、
「分かっているわ。お馬鹿な役員どもを残して死ねないわよ」
そこで竜崎達は一旦解散し、翌日の朝2時に待ち合わせすることにしたのだ。
やはり空はまだ暗い。
明け方だが深夜とも思える暗闇の中竜崎達はたった一つの場所を見つめる。
「紅林から貰った地図によると……本拠はこっちだな」
「……行こうぜ」
灰月の先導により、竜崎達が走り出す。
その光景を本拠にて『予言者』が見つめていた。
如月は彼らの真ん中に当たる位置でポケットに手を入れながらその様子を見ていた。
「……ククク。面白い。たった五人で俺らを相手にするか。魔風(まふう)よ、前で出迎えてやれ。出来れば処分も頼む」
「御意」
魔風と呼ばれた仮面の風を操っていた男は短い返事を返し、その場から姿を消す。
「魔雷(まらい)と魔氷(まひょう)も臨戦態勢に入れ」
その言葉を聞き、その場に居た二人の女も姿を消す。
「さぁて……楽しいな。こういう争いが……俺の血肉を湧きあがらせる」
如月の笑みは心底楽しそうな引き裂かれた笑みだった。
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