賢者の詩 2〜接触〜  作:月夜

あの後。


その夜は焼け残った家の中で休み、かろうじて生きていた数人の村人たちに食料、武器などを分け与え、隣村に行く事を薦めた。
反対するはずもなく、急ぎ足で隣村へ歩いて行った。

そして私は、彼らとは逆の方向に歩き出した。
『闇』というものがどれほどの脅威を持っているのか、今の私には分からない。
ガーゴイルの虚勢であるということも予測できる。

しかし、罪のない人々に危害が及ぶ可能性がある限り、私は動くべきだ。
それが、私に与えられた任務。


とりあえず、今まで通ってきた所では『闇』という存在は聞いたことがなかった。
と、いうことは、この方向に行けば『闇』の居る場所に近づいていく可能性が高い。

これからは、念のため周りに気をつけておいた方が良いだろう。
ウエストポーチに入れてある小さな投擲用ナイフを、いつでも使えるように手に握りこんでおく。

ちなみにこのウエストポーチ、かなり便利な仕様になっている。
神が手を加えた物で、見た目の数倍は中に詰め込むことができる。
念のために持ち歩いている投擲用ナイフ、かさばらない保存食を大量に、そしてたまに資金の足しにしている宝石の類。
稀にその宝石を狙って襲撃してくる盗賊も居るが、すべて撃退してきた。


閑話休題。


身体にかけておいた風の魔法のおかげで足取りは軽く、普段より歩くスピードは速いものの、あまり疲労感はなかった。


次の村は近い。


後数時間だろうか、と思っていると、突然目の前に人影が現れた。

正直言って、印象は良くない。
背中に夕日を背負っているため顔は影になって見えない。
着ている服はすべて黒。
なんとなく暗い印象を残させる人である。

特に困っている様子もなかったので、そのまますぐ横を通り抜けようとした。

「お前がカノンか?」

振り向かず、歩みを止める。

「何故、私の名前を?」

正直、嫌な予感はしていた。


嫌な予感はしていたんだ。




「あ奴から聞いているだろう?私は『闇』と呼ばれる者さ。」




ガッ・・・!



お互い同時に得物を繰り出した。
ナイフと短剣がぶつかり、お互いに間合いを取る。

私が炎を放てば、相手は水で相殺する。

相手が雷を打てば、私は土で壁を作る。

ナイフを投げれば風に飛ばされ、短剣が飛んでくれば氷で弾く。


暫しの攻防の後、お互いに沈黙してしまった。


全くの互角。



負けはしない。けれど勝てない。



睨み合いの続く中、先に口を開いたのは『闇』を自称する者だった。

「流石、あ奴を倒すだけあるな。お主、我らの陣営に加わらんか?」

小首を傾げた格好だ。
小さな女の子がするなら可愛いかも知れないが、こんな得体の知れない者がしても全く可愛いとは思えない仕草だ。

「誰がいきなり襲ってくる者に味方すると思います?」

「クク・・・面白い。気に入った。我の居城は此処より北東に行った先の孤島にある。いつでも来るがいい・・・。」


それだけ言い残すと、自称『闇』はフッと消えてしまった。
瞬間移動でも使ったのだろうか。



闇の言っていたことは本当なのだろうか。




謎は、深まるばかりだった。


コメント

3点 ayu 2008/05/15 20:23
すごくいいです。

3点 しめじ 2008/06/18 17:32
素晴らしいね。

3点 エリナ 2008/06/30 17:23
読みやすくてとてもいいと思います。
3話も楽しみに待ってます。

3点 聖騎士 2008/07/21 13:03
ほとんどの人が荒らしとか手抜きとかにしか見えない程の短文小説ばかり書いている中、コレだけの出来の作品を作っている人がいるとは。
更新を楽しみにしております。

3点 流奈 2008/07/26 22:00
読みやすくて展開が気になります。

3点 いう 2008/09/22 11:32
素晴らしいです!

3点 ??? 2008/09/23 20:24
あげ

3点 asuran◆lkomfuN9f6A 2008/09/28 14:53
丁寧に書かれている。
最高最高最高最高最高最高最高

3点 ???2 2008/09/30 20:07
殿堂入りおめでとう

名も無き詩人 2008/10/01 14:18
なかなかの見応えがあり楽しみにしています

3点 名も無き詩人 2009/01/12 15:17
おもしろ

2点 おれ 2009/02/11 15:25
う〜〜ん


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